2015年9月7日月曜日

【トルファン】ウイグルの家(訪問編②)


前回にひき続きウイグルの家の訪問記である。


⑤はたらく男たちの家




カレーズ博物館に行った帰り、両側にカレーズの走る道をチャリでひた走る。

家の前でぼーっとしていた痩せたじいさんと目が合う。「チャンス」と思いとっさに停車。
じいさんがこっちに来いと手招き。
スケッチブックを見せる。「私は危険な人間ではなく、あなた方の家に興味がある人間です」ということをわかってもらうには一番の方法だ。大体この方法で僕と彼らの間の壁は溶けてゆく。


スケッチブックを無言で見つめるじいさん。うしろにカレーズ。




やはり堅牢な入り口。鉄扉。この家の塀はあまり高くなく、頑張れば中が見える。
向かって左の塀は日干しレンガ、右は焼成レンガ。



「はたらく男たちの家」
築年数:不明
規模:平屋
構造:煉瓦積み
屋根:家→不明、中庭の屋根→鉄骨とレンガの上にポプラ、筵


家に招かれ、スイカと冷たい水をいただく。水はちょっと怖いが、ゴクンといってしまう。うまかった。

中庭では、若い3人の男たちが何らかの溶接をしていた。最初「誰だお前」という目で見られたが、おそらくじいさんの権威によって敷地内の徘徊が認められた。


はいってすぐの庭。なにやら作業している。


こちらも「家畜の鳴く家」同様、家屋-庭並列型である。

平面図。


はたらく男たちの家 平面図。家の中は見れず。
ヒツジと書いてあるところ、ヤギの可能性あり。


家と、庭がほぼ同じ面積。

またここでも庭の屋根を建物から1mばかり上げることによって、風が通るようにしている。
と同時に、影をつくることによって暗くなりすぎないように、間接光として明るさを取り入れていることに気付く。シンプルながら見逃せない工夫である。


ウイグルのシンプルな工夫


ここでもポプラの梁を支えるのは細い鉄骨の柱。


筵のすき間からの光も美しい

外から見る

この家は背後に大きな畑を持っていた。道路にたいして垂直に細長い敷地である。




⑥美人姉妹の家




「はたらく男たちの家」のあと、すぐ近くの家を訪問。


「美人姉妹の家」
築年数:不明
規模:平屋
構造:煉瓦積み
屋根:家→不明、中庭の屋根→ポプラ、ぶどう



この家をこう呼ぶ理由はこの子たちである。

ウイグル人美人姉妹。妹は小学生、姉は中学生くらい。


ウイグルの女性は基本的に美人だが、この姉妹はすごく可愛かった。
姉は大人びて少し人見知りながら妹の面倒を良く見る優等生、妹は友達がたくさんいて笑ってばかりの調子者。姉妹の対比も良い。最初は恥ずかしがっていたが僕が色々見ているとちょっかいをだしてきた。







こちらが平面図。

一階平面図



この家は今までにない配置で、門を開けると奥の方に中庭とベッドがある。手前には物置や羊小屋、トイレなどがある。

奥に進むと、建物の配置が今までにない「コの字型」配置であった。
「コの字」によって囲われた庭スペースをつくり、その正面に大きなベッド、ぶどう屋根の空間。いままで見たものよりプライベートな中庭になっている。


「コの字型」部分



建物は同じくレンガ積み、綺麗さからさして古くないものと思われる。左右対称に部屋が配置されている。

レンガの積み方は長手・短手不規則...



物置ではない部屋の中は半分がベッドで占められていた。
そしてここにも天窓が。

紫と金の天井仕上げはちょっとよくわからないが



今まで見た家もそうだったように、調理場は外にある。
ヤオトンでは調理の熱を寒さ対策に利用するためベッドの隣にあったが、ウイグルでは調理場は独立しており離れた場所にある。トルファンも冬は結構寒いらしいが、黄土高原にあった工夫は見られない。


例のごとく外の塀は日干しレンガが使われがちである。材料は無尽蔵にある。
焼成レンガは、同じ土を使っているのだろうか。などと「聞けば良かった」ことが多い(言葉はほぼ通じないのであまり聞き取りから情報が得られない)。



⑦少年と老人の家


最後は、トルファンからバスで2時間くらい、クムタグ砂漠のほど近くに位置するピチャン(シャンシャン)という町のウイグル民家である。



「少年と老人の家」
築年数:不明
規模:平屋
構造:煉瓦積み
屋根:家→ポプラ、筵、泥 中庭の屋根→ポプラ、筵



中庭に入ってベッドに座っているじいさん二人に「アッサラームアライクム」というイスラム教徒の挨拶をすると、「お前はムスリムか?」と聞かれ、嘘みたいにハエがたかりまくったナンとお茶、スイカを出してくれた。

そして今回はこの少年が家の屋上まで案内してくれた。



外観。ここらへんの家は泥塗りで装飾が多い。



あとから見たところここは「景観保存地区」みたいなものに指定されていたので、このような泥塗りのあからさまな「民族性」を出した外観は、景観保存のためにやってるのだと思う。


メインの居住部分は「巨大ベッドの家」と同じ「中庭囲い込み型」だが、屋根に開口を開けることはなく中庭すべてを覆っている。その奥に家畜小屋や物置、今は使っていなさそうな部屋が複雑に連なっていたが、複雑すぎて図面が書けなかったのでメインの居住部分だけを見る。


一階平面図







家はレンガ造にタイルを貼っていて全体的に風呂場の雰囲気がしないでもない。

こちらの中庭の屋根も、家屋部分から浮かせる(この場合レンガによって透かしをつくる)ことによって影をつくりつつ風を通し、間接的採光も行っている「はたらく男たちの家」と同じウイグルの工夫である。



レンガの積み方で透かしがイスラム風の模様となっている。


少年に連れられて屋上に上ってみるとこの屋根を間近で見ることができた。




屋上は、歩いていると少し怖いくらい、"フカフカ"していた。
おそらく、屋上も中庭の屋根も大体作り方は同じだと思い、ウイグルの家にほぼ共通する屋根まわりの部分断面図を書いてみた。





ウイグル人たちはこの屋根まわりの環境調整によって、[影をつくる][風を通す]ということをコントロールしているのではないだろうか。

(この図は外と、冬の環境、夏の環境が3つ併存している。)


〜おまけ・覗いた家たち〜



訪問した7つの家はすべて紹介したが、訪問できなかったものの少し覗いて見た家々の中にもかっこいいものがあるので載せておく。



ピチャンの家。ポプラの梁太め。


この家はかっこよかった。ポプラが大々的に鉄骨に取って代わり、レンガと泥の従来の壁に対して真っ青な屋根が浮いている。昔ながらの部材にこだわりすぎず、変えるところは変えることで、機能を失わずに建材市場の流れにも適応している。





中庭の屋根の隅を切り取っている。奥にさらに門があり、さらにぶどう干し小屋も見える。
色々な要素が凝縮している家





ぶ漏れ日がすごい。手前に干している何らかの野菜が暖簾のようだ


トルファン-ピチャン間の広大な土地の家は、ほとんどすべて「家屋-庭並列型」だった。
やはりこれが一番シンプルなウイグルの家だろうか。


トルファン-ピチャン間にレンガ工場があった。





2 件のコメント:

  1. 1m浮かせた屋根めちゃいい!!レンガの 束もいい!!!
    手の届かない位置にあるから、人間の時間とは別の、より大きなスケールの時間軸が家の中に入り込んでいくような感じがします

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    1. いいですよね。シンプルだけどかなり重要な気がします。
      たしかに屋上に立ったとき、家々の浮いた屋根がボンボン見えて地上と違う秘密の世界といった趣ありました。

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