ウイグル族の家には、7軒ほど訪問した。
その7軒が
①元老婆の家(現Dap Youth Hostel)
②メロン、スイカ、タバコの家
③巨大ベッドの家
④家畜の鳴く家
⑤はたらく男たちの家
⑥美人姉妹の家
⑦少年と老人の家(トルファンでなくピチャン)
である。
ちなみに僕は訪ねた家に、いつも簡単な名前をつける。こうして名前の中に出来事をとどめておくと、その時の記憶、どんな家だったのかがすぐに思い出されるからだ。
たとえば「メロン、スイカ、タバコの家」は、家の主人がメロン→スイカ→タバコの順で僕をもてなしてくれたからこういう名前にしただけだが、住んでいる人が瞬時に見えてくるのでこの方法は結構気に入っている。
この7軒のうちトルファンの6軒と、前回のぶどう干し小屋群の位置関係はこうなっている。
赤い点線で囲われたところが古い集落と人の言う
(google mapとして埋め込む方法を知らないのでスクリーンショットでがんばってます)
とくに「はたらく男たち」「美人姉妹」のあたりと「メロンスイカタバコ」のあたり(赤い点線で囲った部分)は古いウイグル集落であると聞いた。たしかにここらへんにはカレーズが残っていた。
「家畜の鳴く」「巨大ベッド」はぶどう干し小屋のすぐ近くに位置する家である。
今回は訪問編ということでバンバン写真をあげていきましょう。
まずは泊まっていた宿。
①元老婆の家(現Dap Youth Hostel)
Dap Youth Hostelという、トルファン市内にある宿、元々婆さんが一人で住んでいたものを、漢民族の若い夫婦がゲストハウスとして借り、改装して使っている。計4泊した。
たしか一泊40元(800円)。夫婦は年100万円でこの家を借りているのだそう。安い。
たしか一泊40元(800円)。夫婦は年100万円でこの家を借りているのだそう。安い。
「元老婆の家」
築年数:不明(周りの整然とした道路などから察するにそこまで古くない)
規模:平屋
構造:煉瓦積み(一部木造)
屋根:ポプラの木、筵、泥
ちなみにほとんど築年数は不明である。なぜだか、築年数を聞くと全く通じないので聞き出せなかった...。
外観はこんな感じ。
夕方の外観
外壁は日干し煉瓦積みに泥を塗っていて、正面だけ焼成煉瓦で綺麗に飾っている。
こちらが正面。
改修の際に手を加えられたと見られる装飾
大体の家はこういう大きい門(厚さ50mmくらいの木製扉)をギギギと開けて入る。つまり外から中は見れないことが多い。
ウイグル族は家を閉ざしているのである。
中に入るとそこは中庭。
日中はみんなこの中庭で過ごす。奥が正面扉。
この中庭はウイグル族の家の最も重要な空間であり、このように大きめのベッドというか台を置いているのが常である。
台の上には必ず絨毯が敷かれ、座ったり寝たり自由に使う。
この宿には多くの旅人が泊まっていた。
中庭はぶどう棚の屋根がかかっている。この空間が気持ちよい。日陰になっていて、風が通り、室内よりも涼しいのである。
そしてウイグル族は夏場、この中庭のベッドで眠るというから驚いた。
暑すぎた夜、僕も夜中に中庭に出て朝まで眠ってみたけど、たしかに気持ちよかった。
我々日本人の感覚では「庭」はメインで使われることはあまりない。
我々日本人の感覚では「庭」はメインで使われることはあまりない。
しかし夏場のウイグル族にとっては「庭」こそがメインで、室内はほとんど使わない。
そしてこの中庭は「ぶどう干し小屋」で見た[風を通す]、[影をつくる]といった空間エッセンスでできており、ここトルファンで、長い歴史が生んだ最適解なのであろう。
この空間の使い方は、僕がいままで持っていた「家=たてもの」という考え方を揺さぶるものであった。
そしてこの中庭は「ぶどう干し小屋」で見た[風を通す]、[影をつくる]といった空間エッセンスでできており、ここトルファンで、長い歴史が生んだ最適解なのであろう。
この空間の使い方は、僕がいままで持っていた「家=たてもの」という考え方を揺さぶるものであった。
以下が平面図。(左上が北)
南に中庭を取り、それを取り囲むように建物。庭の半分は畑。
"ぶ漏れ日"(ぶどう棚から漏れる日)
ポプラの木に、ぶどうのツタを絡ませる。
もちろん食べられる。
受付も外にある。
中庭は煉瓦が敷き詰められている。
ぶどう屋根・ひさし・その間など色々な屋根からいろいろな光と影が生まれる。
ドミトリー室内
泊まっていた部屋。8人部屋(扇風機のみ)。
上の写真のようにウイグル民家では天井に小さな天窓を設けていることが多い。
イスラム教のことはよくわからないけど、モスクに行った時に「天井に空ける穴」が空間をつくる鍵だと思ったのと、これも関係があるかもしれない。"天上への指向"とでも呼ぼう。
トルファン, Sugang Minaret横のモスク
天からの光を取り入れる
②メロン、スイカ、タバコの家
「メロン、スイカ、タバコの家」
築年数:不明
規模:古い家→地上1.5階、地下0.5階 新しい家→平屋+屋上にぶどう干し小屋
構造:煉瓦積み
屋根:家→不明、中庭の屋根→鉄骨、ポプラ、板、ぶどう
トルファンで一番最初に訪れた家で、夫婦と小学生くらいの娘が迎えてくれた。
モスクに向かう途中、道を聞いたついでに「家見せて」とお願いした。
メロン、スイカ、タバコをふるまわれる。
現在自力で新しい家の内装を仕上げていた。
木に隠れてしまった外観
中庭
こちらも大きな扉を開けると中庭が広がる。もちろんベッドを置いていて、夏はここで寝るのかと聞いたら「そうだ」と笑う。
こちらのベッドに座らされ、
手慣れた感じでトントン切っていく主人
どんどん果実がふるまわれる。トルファンの果実は何でもうまい。
いま、雑なメモを元に一階平面図を書いてみたらこんな感じ。(実測はせず)
あ
中庭の屋根は3つに分けられるので、色分けで示した。
こうみると、庭の方が大きくて、家自体は小さい。
中庭と図面で青く塗った部分の屋根。雨を防ぐ気はまったくない。
かわいい娘さん
メロンを握りしめた娘さんがついてきた。
ここは内装工事中のあたらしい家の中。
右手に屋上へいく階段、屋上にはぶどう干し小屋
茶色で塗った部分の屋根は割としっかりしている。
屋根
建物から少し浮かせて中庭の屋根をかけるのは、[風を通す]ためと思われる。
屋上。土が敷かれている。
コンクリートに埋め込まれたポプラの梁
ぶどう干し小屋も新しい
ぶどうを干すための器具は養蚕道具に似ていた。
屋上から見下ろす中庭
そういえば「屋上を使う」っていうのは、ヤオトン集落や平遥にはあまり見られなかった。
雨の量が少ないからウイグルでは屋根に傾斜をつける必要がなく、平坦な土地ができるということが理由にあろう。それともこれも"天上への指向"だろうか?
③巨大ベッドの家
僕にウイグルの"天上への指向"仮説をさらに考えさせたのがこの家である。
おおきな中庭、そしてこの家の主役・巨大ベッドが素晴らしくかっこいい。
「巨大ベッドの家」
築年数:不明
規模:平屋
構造:煉瓦積み
屋根:家→不明、中庭の屋根→鉄骨、ポプラ、筵、土
巨大ベッドの家中庭
この巨大ベッドにはたぶん7人ぐらい寝られる。
夏の夜は気持ちがいいだろう。
そしてこの写真、モスクの礼拝室の写真と比べてみると、
トルファン, Sugang Minaret横のモスク 礼拝室
なんだか似ていないだろうか。
大きな中庭にポカッと開いた矩形の穴。天上から光が落ちてくる。
巨大ベッドに敷かれた絨毯と、モスクの床の絨毯も似ている。
これは考えさせられる。
単なる環境的要因だけでなく、宗教的要因が大きく働いているに違いない。
ポプラに取って代わる鉄の柱
少し新しい家になると、中庭の屋根を支えるために鉄の柱が使われるようになる。
二人のおばあさんと2人の幼児が入り口付近に座っていたこの家は10分くらいしか見れなかったので実測もできず図面も書けなかった。
内部を見せてもらったら、もっと巨大なベッドだった。
ウイグル人はベッド大好きなんだろうか。
ウイグル人はベッド大好きなんだろうか。
冬しか使わない巨大ベッド。ウイグル族はみんなで眠る。
④家畜の鳴く家
「家畜の鳴く家」
築年数:不明
規模:平屋
構造:煉瓦積み
屋根:家→不明、中庭の屋根→ポプラ、筵、枝
家屋と中庭が並列しているタイプで、レンガ造りの家にさしかけたポプラ屋根が大きな影をつくってくれている。非常にわかりやすいプラン。写真で言うと夏は左側、冬は右側で暮らす。
この奥に大小様々な家畜が群れ暮らしていて、近づきすぎたら主人が「あんま近づくな!やられるぞ!」と注意してきた。
ここの家も10分くらいしか滞在できなかったが、少し動画を撮ったのでのせておく。
訪問数が多かったので後半へ続けましょう。
[追記]
②メロン、スイカ、タバコの家 ものおき部分の日干しレンガの積み方
敷地内に入るとどーんとポプラ屋根。
家屋と中庭が並列しているタイプで、レンガ造りの家にさしかけたポプラ屋根が大きな影をつくってくれている。非常にわかりやすいプラン。写真で言うと夏は左側、冬は右側で暮らす。
この奥に大小様々な家畜が群れ暮らしていて、近づきすぎたら主人が「あんま近づくな!やられるぞ!」と注意してきた。
ここの家も10分くらいしか滞在できなかったが、少し動画を撮ったのでのせておく。
サイズを落としたら地獄のような低画質になってしまいました
訪問数が多かったので後半へ続けましょう。
[追記]
②メロン、スイカ、タバコの家 ものおき部分の日干しレンガの積み方
正面と右側の塀部分で積み方が違っています
おひさしぶり。
返信削除いってらっしゃいもできませんでしたが、、密かにずっと読ませていただいてます。
ぶどう干し小屋、写真だけでもコウフンしました。行ってみたい!
ひとつ質問いいですか。
③、④のお家の煉瓦の積み方が、全部長手積みかと思ったら、たまに短手積みの段があるように見えるんだけど、何か理由とかわかりますか?装飾的なものかな?
②はイギリス積みぽい。
煉瓦に目がないもので、失礼します。
引き続き身体気をつけて。すばらしき旅を。
昨日学会発表してきました。まるも
まるも姉さん
削除コメントありがとうございます。読んでもらいうれしいです。
レンガの積み方に注目されるのはさすがのレンガ研究者ですネ。
②はたしかにイギリス積みっぽいです。現在内装の施行中ということもあって割と新しいものだと思われます。
③④は僕も確認しましたがなかなかルール(何段ごとに短手積み、など)が発見できません。ウイグルの家はイスラム的な装飾を施す傾向が所々見られるので、単に装飾という可能性もあります。しかし何か構造上の意図はあると思います。
壁体の厚みが短手幅よりあるはずなので、長手積みに短手積みを混在させることでレンガの引っ付きが強くなる(壁体の中の芋目地防ぐ)ということはあると思いますが。どこで短手を挿入するかは謎ですね。
家の年代をしっかり聞き取れていれば年代ごとの傾向がわかったかもしれません。すみません確認不足でした。
※日干しレンガに関してもいろいろ積み方がありました。参考までに[追記]に②の家の日干しレンガ部分を載せておきます。正面と右側の塀の積み方が違いました。正面は開口が必要なので縦目地が揃うところができるあの積み方であると考えることもできそうです。
学会発表おつかれさまです!
返信ありがとう。
返信削除日干し煉瓦情報も!
装飾にしてはとても控えめだけど、何かその微妙なリズムに意味があるのかなぁ。
室内の空間とかその構造に何か関係あるのかしら。
とにかく見れば見るほどかっこよい。
ありがとー!