タシュクルガン2日目。約束通り朝9時にダンディの家に行くと、ダンディともう一人のおじさんがやってきて、これからどこかに行くような雰囲気であった。
ダンディの家から歩いてどこかに向かう途中、コンクリート造のタジクの家も発見した。
色やトップの装飾などは統一してある。
奥が石積みの家、手前がコンクリートの家
静かな道を歩くおじさんふたり。基本的にジャケットをきめている
そして着いたのは、これまた同じようなタジク族の家であった。
右が連れて行かれた家。おなじみの石積み。
何やら人が集まり騒がしいあの"中心の部屋"に通される。するとそこは…
中心の部屋の一角。
柄物の透けた赤い布で、部屋の一部が分けられていた。
その奥には、若い男女が座っているらしい。
どうやら今日は、この二人の結婚式のようだ…。親族たちのさぞかし重大なイベントに、ダンディは昨日会ったばかりの薄汚い日本人の若者を連れてきてくれたのであった。
23歳であるから、日本の結婚式の経験さえほとんどない。
昨日の予想通り、この部屋はタジクの家にとってやはりもっとも重要で、儀式的な要素を持つ部屋だったと考えていいだろう。
こちらの天窓もイスラミックで凝っている。
とりあえず座っていろと言われ、観察していると続々と人が集まってくる。おそらくみんな親戚なのだろう。
僕は特にすることはないので(ダンディ以外とは本日初対面なわけだからわりと肩身は狭いのだ)観察しながらこの結婚式の一部始終を記録することにした。
彼らは新たな人がやってくると毎回タジク流の挨拶をする。
男同士は握手してその手にキスし、女同士は唇でキス、男と女の場合は男の右手の平に女がキス、若い男とおばさんの場合男のほほにおばさんがキス、といった感じで挨拶だけでも色々なパターンが見られて面白かった。
待っている間はみんなお茶と油菓子(味のないクッキー)、チョコなどを食べて喋っている。することのない僕は何杯もお茶をすする。
座っているおばさまたち
タジクのおばさんたちは円柱の帽子にスカーフを巻くというおそらく晴れ姿でやってきている。この色の違いに意味があるのかは知らないが、若い女性ほど派手な色使いであったような気もする。
次から次へとやってくるタジクの女たち。若い人はスカーフを巻いていなかったりもする。
別棟の部屋は男の控え室のような場所になっていた。ここでも再現のないお喋りが繰り広げられるが、僕にはなにひとつわからない。
オシャレな男たち
男はとくに民族衣装を着ているわけではなく、ジャケットにパンツ、帽子は必須でダンディな格好をしている。タバコを吸わない人がいないほどみんな吸っている。
...そうこうしていると軽トラックに乗せられてヤギがやってきた。
これはもしかして"ごちそう"というものだろうか。
ということはこのヤギが今から殺されるのかしら…。
予想はきれいに的中した。
まず、男たちが6匹ほどのヤギを小屋に入れ、何やらノートに書いて品評している。どのヤギを生け贄に捧げるのか選んでいた。
選ばれたヤギくん(羊っぽくも見えるがどっちだろうか)
しばらくすると2頭のヤギがあの部屋に連れてこられ、一族もみんな集合した。
そこでみんな両手を前に差し出し、中年の男性が何やらブツブツ唱えている。神への感謝の言葉と思われた。
みなで最後に声を合わせて感謝の儀式が終わると(アッラーと言っていた気がする)、ヤギたちは家の前に連れて行かれる。
地面に少し掘り込んだくぼみに首をあてがわれ、素早い手つきで鋭いナイフによって首を切られた。この作業は男のみが担当していた。
僕は全く知らない人の結婚式にて人生で初めてヤギの屠殺現場を目撃した男となった。
※動画も写真も撮ったけれどこういう場にあげるものでもないのでやめておこう
暴れるヤギを男たちが抑え、完全に死ぬと見事にどんどん皮をはいでいく。ナイフの切れ味は抜群だ。
興味津々に見つめる僕を見て、男たちも笑いながら張り切っている。
取り出された内臓はあまりにも綺麗だった。
しばらく解体ショーを眺めていると、あの部屋から軽快な音楽が聞こえてきた。
入ると部屋の真ん中で老若男女が踊っている。結婚式の宴である。
踊り手は入れかわり、立ちかわり。部屋に30人はいたかな。
女の叩く太鼓と男の吹く小さい笛による音楽が、日本の祭りの音楽に似ているなと思ったりした。
踊りの様子
部屋の中心を使って、踊りながら回り続ける。定型の踊りはなさそうで、両手を広げて踊っている。
(あとからネットで調べたら、タジク族の踊りは鷹?の踊りで、それはゾロアスター教の名残があるとかないとか書いてあった。)
昨日重要だと感じたあの部屋の使い方がこんなに間近に、しかも最も大事な日のひとつであろう結婚式において見られるとは。
結婚式における中心の部屋平面図と使われ方のメモ
解体班に戻ってみると、殺された計3頭のヤギの頭をガスバーナーであぶっていた(煮込むのだろう)。肉の処理には女も参加していた。
また部屋に行ってみると、新郎新婦が何やらボウルに入った小麦粉をかき混ぜていた。初めての共同作業、ケーキカットの用なものだと解釈した。
赤い布を頭にかけた女の人が新婦、その隣が新郎
他の部屋も覗いて見たら、こちらもゴージャスすぎる部屋があった。
布にまみれて眠るのだろう
一族の中には子供たちもいて、家の内外を走り回っている。一人の少女は僕に興味を示し、ずっとついてきた。
この少女とスイカを食べるなどして過ごす。
小さいながらもしっかり民族衣装
調理場から包丁の音が聞こえ始める。昼飯だ。
昼飯には透明な麺の入ったトマトベースの料理が出た。ありがたいことに部外者の僕にも提供された。牛肉、ジャガイモ、パクチー、白菜などが入っておりとても美味であった。
食べるタイミングはそれぞれ。
たしか手で食べた。
ヤギはいまさっき煮込み始めたばかり、焼いた頭もバラされ煮込まれていた。
さっき殺したヤギを煮込む
このスープを味見させてもらったら、僕にとってはヤギ臭が半端なくてキツかった。
そのあとなかなかヤギ肉料理は出てこなさそうなので、次の日の下界に戻るチケットを買いにいく、といってこの家をあとにした。
この家からはこんな景色が毎日見える。
2時間後くらいに結婚式の家に戻ってみると、なんともう会が終わっていた。
しかし挨拶しておこうと思って中に入ると、「飯食ったか?」と言われたので、「食ってない」と言うと、あのヤギ肉の入った「ポロ」(ピラフのようなもの)を食べさせてくれた。
スープは無理だったが、これはいままで食べたヤギ肉(羊肉)の中で一番美味くて、ちょっと感動した。数時間前まで生きていただけある。
その後ダンディはもう家に帰ったと思われたので、お礼をしに行った。最後までクールな男だった。ありがとう、写真おくるよ。
部屋の使い方をはじめ彼らの生活を空気で感じることができた、もう多分一生見ることはないだろうタジク族の結婚式の話でありました。
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