老人定例会で僕が聞いたヤオトンの欠点は、
・膝が悪いので上り下りが大変なこと
・湿気がすごいこと
の2点(は聞き取れた)。
おそらくそれに、明るさの問題とかもあるのだろう。
しかし意外だったのは、僕の「ヤオトンと新房子はどちらが好(ハオ good)ですか?」という質問に対する老人たちの答えが
「どちらも好!」
だったこと。てっきりみんな地上に出てくるのが最上の幸せ、みたいな感じに思ってるのかと考えていたけど、違ったみたい。
今回は新房子の立地について書いてみようと思う。
□新房子の立地 どこに建つの
それを検討するのはみんな大好きgoogle mapの航空写真で見るのがわかりやすい。
が、その前に確認しておかなければならないのが、実はこの張村のヤオトンはほとんどすべて「下沈式」というヤオトン住居であるということである。
ヤオトンは大きく「横穴式(靠山 カオサン式)」と「下沈式」に分けられる。
以下がその断面模式図。(GL=地面の高さ)
上が「横穴式」、下が「下沈式」。
簡単に言えば、
「横穴式」・・・崖に横穴を掘ってつくった住居。最も原始的なヤオトン。そもそもは黄土高原の冬の厳しい寒さのため。また、木材が乏しいため。ヤオトンは「引き算」でつくるので、ほとんど建材が必要ない。
「下沈式」・・・平坦地に深さ6mほどの穴を掘って中庭をつくり、そこから横穴式と同様掘り進めてつくった住居。崖のないところでも「土の中」に住みたいと願った横穴式ヤオトン集落出身の人々がはじめたのだと思う。ここにヤオトン住居における形態的飛躍が見られる。あまりにも特徴的なのでこっちが有名。
以下は窰洞考察団『生きている地下住居』(彰国社,1988)から引用した、黄土高原の地形とヤオトンの形態の関係図。ちなみに上記2つの他に「地上式」というものもある。土を掘ってではないが地上に建てて土をかぶせてヤオトンのような断熱効果を生む住居である。
わかりやすい!見えますかね。
張村で見られる下沈式ヤオトンは、住居の上部に木が生やせない。そこから土が崩れ、住居の天井が落ちてくるからだ。
ゆえにひとつの下沈式は穴の大きさ以上にかなりの面積を必要とし、地上にはあまり木が生えず、広がる平地に穴がポコポコあいているあの風景が出来上がるというわけだ。
そこで、このヤオトンを捨てたあともこの大きな面積がネックになる。
まず、ヤオトンを埋め戻すのは簡単ではない。その分の土を運んでくる必要があるし、労力は計り知れない。
また、たとえ埋め戻せたとしても、元々ヤオトンのあった場所は地盤が軟弱になっており「新房子」は建てられないという。
そこで前回も登場したgoogle航空写真を再び見てみると
左上と右上に固まる新房子群。
新房子の多くは、もともとの集落の外周に広がるように建っているのである。
集落内は、使われなくなった穴だらけである。ちょくちょく、穴を避けて集落内部に建っているのが見える。
集落外の建物は集合住宅がほとんどで、内部は戸建てが多い。
つまり、下沈式ヤオトン集落は、そのままの場所で建物の更新ができない集落であると言えるのではないか。
以下に周囲の半径5km以内くらいのヤオトン集落の航空写真も収集してみた。
とてもわかりやすい例。
かつては農地だったであろう場所に建つ
大きめの規模の村も、外へ広がったり、隙間を縫ったり。
ここまでバラバラに広がると、かつて近くに住んでた人々の連帯感も薄れそう
やっぱり、推測は正しそうだ。
現在の下沈式ヤオトン集落は、使われなくなったヤオトンをどうすることもできず、それを囲うような形で人々は新たな住居に住んでいる。ヤオトン住居を捨てることは、その土地を捨てることに等しい。
ヤオトンが何千年も(この村では2千年)変わらない住居スタイルであり続けたのは、その変更の困難さによるところも大きいのかもしれない。
「下沈式ヤオトン」の「掘ったが最後」感。
いま我々は現代の要請する住環境に応えられないヤオトンに人々を無理に住まわすのでなく、人々が「ヤオトンの抜け殻」をどのようにうまく利用できるか、そういうことを考えなくてはならないのである。
農地をつぶして遠くに家建てるくらいなら、「抜け殻」の中に高床式の家を入れ子状に建てたりしても面白いと僕は思う(ヤオトン自体は利用できていないので雑な考えですね)。
ヤオトン抜け殻入れ子式高床住宅(仮)
まあでも集落外に新房子が建つことによってかつてのご近所さんがバラバラに暮らしていくことになってしまうってのは問題ではありそうだ。
僕が見た限り張村でも、一部、住んでないけど畑として中庭をつかっているものや家畜を飼っているものもあったけど、放置され、時に崩落しているものが多いのが現状なのでありました。
集中豪雨などで崩壊する
さようならヤオトン
なんだかヤオトンについての記事がだいぶ長くなりそう。それほど面白かったということで...。
リアルタイムでは現在平遥古城という2700年ぐらい前から人が住んでいる、現在世界遺産になっている場所の中に泊まっていて、明日の夜から、敦煌へ向けて30時間1800kmの旅に出ます。
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